300年時を経て…バッハのレッスン

バロックの大家であり、音楽の父と称されるJ.S.バッハ。

数ある作品から「パルティータ」を某国公立大学のピアノ科に学ぶ生徒さんが持って来ました。

 

初めは変奏曲の意味で用いられていた「パルティータ」Partitaは、ドイツで「組曲」Suiteの様式に変化しました。「分割されたもの」が語源で、「パート」part(部分)と言う単語は日常で使っていますね。

その「組曲」Suiteとは、その名の通り「組み合わされたもの」で複数の曲をひとつにまとめています。ホテルのルーム・カテゴリーも幾つかの部屋から構成された「スィート・ルーム 」Suite roomがありますね。

 

組曲もパルティータもそれぞれ、各作品内ひとつの同じ調で統一し、異なる舞曲を軸に構成されています。

その源流をたどると、16世紀のリュート音楽やバレエ(バロックダンス)音楽にさかのぼりますが、器楽曲として定着した17世紀には4つの舞曲とその配列が定型化されました。その中に更に幾つかのギャラントリー(挟み込まれた曲)が加わり、一層多彩に仕上がっています。

 

まず主だったその4つの舞曲とは・・・

・アルマンド Allemande

「ドイツ風の」と言う意味のフランス語ですが、ルイ14世フランス宮廷で栄えたリュートのスタイルから影響を受けた舞曲です。リュート風のアルペジオの中に多声部が織り込まれています。中庸(でもほんの少しゆったり気味でしょうか)のTempo感を保ちながら繊細で軽いステップを想起させる2拍子or4拍子の曲です。

 

・クーラント Couranre/ コレンテ Corrente

少し早いTempoで、フランスのスタイルでは優雅な曲調で3拍子と6拍子を交替させたりし、イタリア型のコレンテでは語源の「走る」ごとく駆け回るようです。

 

・サラバンド Sarabande

スペインが起源の荘重な3拍子の舞曲。語源はアラビア語で「ノイズ(騒音」)」とのことで、組曲に定型化される以前の初期には早いTempoだったそうですが、スペイン語の「舞踊」のようにゆったり高貴な曲想となりました。

 

・ジーグ Gigue/ジグ Giga

アイルランドの舞曲Jigが発祥と言われています。速いTempoの6拍子or 9拍子で、フランス型ではGigueと表記し、対位法的に展開し、後半はその主題が反行形となるのが特徴です。Gigaと拍子されるイタリア系はもっとTempoが速く、対位法的ではないのが基本です。

 

バッハは、これらの同じ舞曲でも上記のように典雅なフランス風な香りに仕上げたり、鮮やかなイタリア風の色合いを出したり・・・とスタイルや曲調を区別して作曲しています。

 

また、その中にギャラントリーが加わるのですが、具体的にはメヌエット Menuet、ガヴォットGavotte、ブーレ Bourrée、パスピエ Passepied、リゴドンRigaudon、ポロネーズ Polonaiseなどの舞曲があります。そしてエア Air(アリア)や、冒頭に前奏曲 Preludeや序曲 Oveture、幻想曲 Fantasia、シンフォニア Sinfonia が置かれる作品も。

 

今回のレッスンはパルティータでしたが、バッハ自身が楽譜出版時に次の様に綴っています。

クラヴィーア(鍵盤楽器)練習曲集

前奏曲、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ、メヌエット、そしてギャラントリー

愛好家の心を楽しませるために

ザクセン公、ヴァイセンフェルス公の楽長、およびライプツィヒの音楽監督、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲

作品1

作曲者により刊行

1731年

 

このように1つのパルティータは複数の曲から構成されており、1726年より約1年ごとに1作品を完成させ、6作品まとめてClavier-Übung(クラヴィーア練習曲集)の作品1(第1巻)として1731年に出版しました。

Clavier-Übungはその後、3巻続けられました。Übungは単にメカニックな技術修練に留まらず、精神面も含めた探求、追求、習得を目指した意味合いがあるようです。

伝統的な「組曲」から自由で新たな境地を開き、規模を拡大させた作品と言えます。

 

ヘンレ版の楽譜を持参した生徒さん。原典版は編纂者による強弱やアーティキュレーション、運指の指示がないので、それらの探求が楽しいのと同時に、工夫するのに苦心する場合も。

「1本調子になりがちで・・・」とののことでしたので、各曲の特徴を際立たせるためのタッチの変化や、自然なアクセントの位置確認、曲の構成を考えた効果的な強弱法の例をアドバイスしました。

各曲は小規模ですが、それらを完成させ、全体を一つの作品として把握しまとめ上げるのは専門の大学生でも取り組みがいがあります。

生徒さんなりに美しく表現していましたが、苦労していたところや、漠然としておぼろげだった曲もすっきり納得して帰られました。

次回レッスンは近現代のピアノソナタ!

これまた難曲ですが、頑張ってくれることでしょう!